< 第4章 >



結局屋敷に引き返した和夫と秋子、そして影から逃げ出したエミは田口とアスカが戻ってこないまま夜を迎えた。和夫は二人を探しに行こうとするが、秋子は自分たちが暗闇に置いていかれるのが怖く、結局三人で屋敷に入る事にした。

屋敷に入ろうとすると、背後からライトの光と車のエンジン音がした。
車から一人の男が出てきた。さっきの山村だった。
山村は近づくやいなや和夫たちを怒鳴りつけ、和夫を強引に壊された供養塔の場所に連れて行った。
山村は供養塔を壊したのはお前かと責めたが、心当たりのない和夫は自分ではないと主張。秋子たちも何も知らなかったと山村に訴えた。
山村は和夫たちに出て行くように説得したが、和夫は拒否する。

秋子はこの屋敷で何が起こったのかを山村に尋ねたが、あんたらには関係ないと帰るように言った。
和夫は帰りたくても屋敷にまだ仲間が残っているんだと山村に訴えた。和夫は山村を相手にしないで屋敷の中に入った。

屋敷に入った和夫たち。山村にも来てもらったほうがいいと言う秋子や、ここ出ようよと泣きつくエミに耳を貸さず和夫は先へ進む。そして和夫らは屋敷の犠牲になった二人の無残な姿を目撃する。アスカの遺体は赤い光を放ちながら溶けつつあった。


二人の遺体のあった部屋を出ようとした時に山村が姿を現した。山村は二人の遺体を確認し、和夫らは何があったのかと山村に尋ねた。

その頃、エミの前に影が現れた。
エミは影を死んだ母親と錯覚。影に誘われたまま和夫たちから去っていった。
和夫は振り向くとエミの姿がない事に気づき、三人でエミを追いかけた。

エミは寝室でベッドのマットを散らしていた。和夫を呼ぶエミの声がする。

  お父さん…おいでよ。
  お母さん…お父さんが来たよ。
  また三人で暮らせるね。
  お父さん…何してるの?早くいらっしゃい。

エミ以外の声も重ねて聞こえてくる。
和夫はエミに誘われて寝室に入ろうとしたが、山村に制止される。こいつはあんたの娘じゃない!と。和夫には理解しがたい。姿はエミだが、顔は影に覆われている。

秋子が懐中電灯で寝室を照らそうとすると、懐中電灯が突然粉砕された。

山村はポケットから土偶を出し、エミの影にかざした。
影は熱い光を放ち、土偶は赤く輝いた。
山村の手が熱くただれ、不思議な力で後ろに吹き飛ばされた。

闇に覆われた寝室。和夫は闇に手を伸ばすと青い光が走り、危うく火傷を負いそうになった。山村が和夫を止めようとしたのも聞かず、和夫は闇に飛び込んでいった。そして、寝室の羽毛と共に、和夫は廊下に放り出され、壁に体をぶつけて失神した。


夜が明けた。だが、屋敷は暗く静まり返っている。

負傷した和夫の手当てをする秋子。和夫は山村に屋敷で何が起こったのか尋ねた。最初に見た一郎のフレスコがライトに照らされ、青く浮かんでいる。

「30年前の事だ。間宮家に待望の赤ん坊が生まれた。間宮一郎は喜び、わが子の成長の物語を壁一面に描こうとした。しかし、幸せは長くは続かなかった。」

「ある朝、間宮夫人(渡辺はま子)はいつものように地下室へ降り、焼却炉のコックをひねったんだ。」

「ヨチヨチ歩きを始めたばかりの赤ん坊が…焼却炉に入り込んで遊んでいたのさ…。赤ん坊を引き摺り出した時にはすでに手遅れだった…。母親もひどい火傷を負い、片方の眼を失った…」

「事件の後、この地方一帯の赤ん坊が何人も神隠しに遭った。犯人は間宮夫人だった…」

「村の赤ん坊を攫(さら)っては、次々と焼却炉に投げ込んでいたんだ。」

「子供の遊び友達さ。死んだ子が独りぼっちじゃさみしいだろ。そう思って遊び友達を連れてきてやっていたのさ。」

「事実を知って、村人たちは間宮邸へ押し寄せた…。追い詰められた間宮夫人は、自ら焼却炉に身を投じた。」

「間宮夫人は死んだ。まもなく一郎も死んでいった。しかし一郎は死ぬまで絵を描き続けた。これが間宮邸の物語さ。」

山村が語り終わると和夫はエミはどうなったと尋ねると、闇に眠り続けていた夫人を起こしてしまったのがきっかけだと。そして、闇が邪悪の概念を持つようになったのだと。

和夫はエミが闇にさらわれたから光を当てようと考えたが、当てれば余計怒らせるのだと山村と言い争いになる。

山村はウイスキーを飲みながら心の力について諭した。そして秋子に自分の事を尋ねると、こう言った。

「ただの女が母親に勝つのは生易しい事じゃない。いいか、子供を失った母親と、母親を失った子供の気持ちが引き合ってるんだ…」

山村は和夫にウイスキーのビンを潰してみろと差し出したが、和夫は馬鹿馬鹿しくなってビンを山村に返した。山村は余興のごとくウイスキーのビンを潰してみた。

ビンを片手に深く呼吸をする。そして歌った。

  ※岩に凭れた もの凄い人は 鉄砲片手に しかと抱いて
  歩む額は 帽子に見えねど 服はビロード ひらと靡く
  惚れた娘に 災い迫れば 命かけても しかと守る
  愛しの人よ さようなら別れだ 交わす瞳に きらと涙

  ディアボロ 嵐吹こうと 轟くその名は ディアボロ ディアボロ ディアボロ
  ディアボロ〜

歌が終わり、ビンに向かって念じた時、ビンは見事に変形した。三人は大笑い。

山村はエミを救い出そうと、地下の入り口を開けた。和夫・秋子はライトや延長コードを携え、三人で地下室に入っていった…。

− 続く −
 

<ポイント>


山村「光を当てれば影が出来るだろうが!小さく細かく光を当てることができたとしても自分の中の闇はどうなる?口の中にも握った拳の中にも闇はできるぞ!」

山村「必要なのは集中力。心の力だ!」

山村「心を強くするのは本当に骨が折れる。男だってひ弱な奴じゃ役に立たんぞ!」

※「ディアボロの歌」:元々はフランソワ・オーベールの歌劇「フラ・ディアボロ」中のアリア「岩にもたれた」。「ディアボロの歌」は浅草オペラで広く歌われた。この映画で歌われた歌詞とは一部異なります。