さんさんと照りつける太陽
心地よく吹く風
「平和だなー」
たしかにこの物語の主人公レイド・フリーダムが言うように
これ以上ないほど平和な日だった。
ちなみにレイドはここ、リルムダール王国の王アーク・フリーダムの息子
つまり王子である。
髪は金色。細いが筋肉のついたがっしりとした体格、それなりに端正な顔の持ち主である。
そこに突然「ババババババババババ」
といった音が聞こえてきた。
なんだ!と思い窓の外を見てみると、
見たこともないものが空から降り立っていて、それは門前に着陸した。
それを見たレイドは急いで門前に向かった。
そしてそれは当然ながら兵士に囲まれていた。
しかし兵士たちもただ囲むだけであって誰もそれに近づこうとしないとしない。
そんな状態が1分ほど続いた後中から1人の女性が出てきてこう言った。
女性は長い金髪の髪を持ち、端整の顔立ちをしていた。
兵士の中には見とれているものもいた。
「私はこの国の王に謁見しにきたんだけどできるかしら?」
しかしながら兵士長の反応は、
「そんなことできるはずないだろ!
せめて最初に謁見願いの手紙を贈るなりしたらどうなんだ!
大体その乗り物はなんなんだ!?」
「そんなにいっぺんに言われても答えられないわよ。
一般兵じゃ話にならないわ。
もっと偉い人を呼んできて!」
女性の顔に似合わず迫力のある声に驚く兵士もいた。
だが、兵士長の反応は
「何を言い出すんだきさまは!
それ以上変なことを言うと牢獄に・・・・・・レイド様どうしてここに?」
そう、やっとレイドは降りてきたのだ。
「少しその乗り物が気になってさ。
王に会いたいんだっけ?
いいよ、ついてきな。」
とレイドは快くOKした。どうやら今までの話を後ろのほうで聞いていたようだ。
「いいの?
ありがとう!感謝するわ。」
と女性はよろこんでいたのだが、兵士の反応は、
「しかし、こんな得体の知れない女性を場内に入れるのはどうかと。
しかも、こんなものを持っているのなら
ほかにも何か危険なものを持っている可能性も・・・」
だがレイドはこう言った
「大丈夫だって。
この子から悪意は感じられない。
それにいざって時は俺がどうにかするからさ、な?」
兵士長は怪訝そうな顔で返事をした。
「レイドさまがそこまで言うのなら仕方ありませんね。
しかしくれぐれも注意してくださいね。」
不満ながらも納得してくれたようだ。そこで女性は
「じゃあ入りましょうか」
と言ってレイドを引っ張って入っていった。
「俺の名前はレイド・フリーダム
一応この国では王子っていうことになっているね。
ところで君は何者なんだい?
名前とどこから来たか教えてくれないか?」
そうレイドは尋ねた。
「私の名前はフィル・クレスター。
バベル島からきたのよ。」
そう彼女が言うと、レイドはもちろん周りの人まで驚いた。
バベル島というのは魔の海域の中心にあるといわれる島のことである。
ところが、魔の海域というのはいつも嵐や渦潮があり、
近づけば2度と帰ってこられないといわれている。
ちなみに、いまよりずっと昔は嵐などなく、人が行き来していたという伝承がある。
そんなところからきたというのだから驚いても仕方がない。
しかし、フィルはそんなことは気にせず話を続けた。
「それよりもどうして私みたいな得体の知れない人を中に入れたりしたの?」
「あ、ああそのことか。
君の乗ってきたものが気になったからだよ。
俺の知っているものの中で空を飛ぶ乗り物なんてなかったからさ。
できればその技術を少しでも取り入れることができればなと思ってね。」
今度は逆にフィルが少し驚いていた。
「空を飛ぶ乗り物がないってどういうこと!
まさかこことバベル島では技術の発達がまるで違うってことなの?」
「ああ、そうかもな。
そろそろ親父のところにつくから話はまた後でな。」
そういって2人は玉座へと進んでいった
「よくきてくれたね。
それでお嬢さん、用事は何かな?」
リルムダールの王、アーク・フリーダムは玉座に座っていた。
多少太っているが、やさしそうな顔立ちの人である。
「私の名前はフィル・クレスター
バベル島からきたんです。
そのなかで、みんな幸せに暮らしていました。
しかしある日を境に王が独裁に走ってしまったんです。
税率は上げる、徴兵令は厳しくする、
国民を弾圧する法を作るなどのことをされてきました。
しかも最近になって他国に侵略するとも言い始めたんです。
お願いします、どうか王を止めてください!」
その話は衝撃的で場の雰囲気を凍らせた。
そこで王は、
「確かにその話が本当ならわが国にも被害は及ぶ。
しかし、その話が本当だという証拠はどこにもない。
しかもさっき乗ってきた乗り物、あんなもののある国にわが国だけでは対抗できない。
何か証拠はあるかね?あれば協力して他の国に使者をだそう」
そこで彼女は1冊の本を取り出した。
「これを読んでください。
これにはバベル島の法律が書いてあります。
これでは信じてもらえませんか?」
そこで王は優しい顔をして
「わかった、信じよう。
では、ラーグランドに使者を出そう。
誰か行ってくれるものはおるか?」
そこで、フィルはすかさず返事をした。
「わたしが1人行ってはまずいですか?
紹介状をかいてくれればあとはなんとかがんばてみます。」
なんとフィルは自ら志願した。
「べつにかまわんが本当にいいのか。
私としても、女性の1人旅は正直不安なのだが・・・」
王が考えているとき、回りの兵たちも考えていた。
確かについていきたいのだが、得体が知れな者と一緒というのは。
そんなとき、
「なら親父、俺がついていくよ。
俺が行けば紹介状もいらないし手間が省けていいだろ。
それに、俺の腕は知っているだろ?」
そうレイドが言ったところ、
「わかった、なら任せたぞ。
しかしくれぐれも無理はするな。
お前は大事な息子なのだからな。」
王は不安そうにそう返事をした。
しかしレイドはうれしそうな表情で、
「なら早く行こうぜ、フィル。
なるべく早いほうが良いんだろ?」
そしてフィルも、
「では、ありがとうございました。
この結果は必ずご報告しますので。」
そういうと2人は玉座から離れていった。
「技術提供の話出てこなかったけどそれでいいの?」
「別にいいよ。
それについてはこの問題が解決してからでもかまわないからね。
それに頼まなくてもOKしてくれるだろ。」
そうレイドは言った。
どうもこの人は楽天的な性格らしい。
もしもここで私がダメと言ったらどうするつもりだったのだろうか。
でも、フィルの返事は、
「確かにそうね。
今そんなことをしている暇もないし、頼まれなくてもするつもりだったしね。」
「でも、もし1人で行くことになっていたらどうしたんだ?
あ、そうか。あの乗り物を使えばよかったんだな。」
「それは無理よ。
あれはもう燃料が残ってないから。
でも、もし私1人で行くことになっても大丈夫だったよ。
これでも、剣士なんだから。」
「そうだったのか。
俺も魔法剣士なんだ。
今度手合わせを願いたいものだよ。」
そう言うとどうもフィルは不思議そうな顔をしている。
「どうした?」
そう聞いてみると、
「魔法って何?」
フィルはこう答えた。
「魔法を知らないのか?
まさか、バベル島では魔法のかわりに機械文明が成長したってことなのか?」
「そうかもね。
魔法ってものを見せてもらいたいんだけど今できる?」
「ああいいよ」
そういうとレイドは精神を集中してこう叫んだ
「ブレイブ」
すると2人に前に火の玉が現れた。
「レイド様何してるんですか!
お城が火事になったらどうするのですか。」
使用人はそう怒った。
「わかったよ。」
そう言うとレイドはまた集中して、
「ウォータ」
と唱えた。
そうすると火の玉は水によって消されてしまった。
しかし、水によって当然床はぬれてしまい、
「レイド様、いつもそうやって私たちの仕事を増やさないでください!
魔法を見せるなら外でやればいいでしょう。」
「わかったよ。今後から注意する。」
「いつもそう言ってなおらないんですよね。
いいかげん王位を継ぐ年が近づいてきているんですから
少しは大人になってくださいよ。」
この国、リルムダールの王位継承年齢は20歳
今のレイドの年齢は18歳、つまりあと2年で王位継承なのである。
しかし、それを言われたレイドの反応は
「俺だって好きで王子になったわけじゃないんだ!
フィル、早く城下町に行こう。
もう1人連れて行きたいやつがいるんだ。」
「え、あ〜待ってよ!」
そう言うと2人は早足で城下町に向かっていった。
2人は城下町にいた。
リルムダールの城下町はかなり発展しており、ほとんどの種類の店があった。
「さっきはどうして怒っていたの?」
今は普段道理だが、さっきのレイドはかなりの形相を浮かべていたのだ。
「いや、最近何か言われるたびに王位継承がどうこう言われていてね。
それがどうも俺に言ってるんじゃなくて、
王位継承者に言ってるようでいやなんだよね。」
「王族っていうのもいろいろ大変なのね。
さっき誰か連れて行きたい人がいるって言ってたけどだれなの?」
「ハーネス・サージェントってやつさ。
剣の実力はからっきしだけど、魔法の実力は俺以上なんだよ。
それに考古学者だからいろいろ知識もあって役に立つと思うぜ。
お、ついた。
ここがあいつの家な。」
前にある家はいかにもぼろぼろでとても王族の友達が住んでいる家には見えなかった。
「まさかこの家の人なの・・・」
フィルはどこか複雑な表情をしていた。
「そうだけど、どうかしたのか?」
「いや、ただ王族の人がこんな家の人と友達でいいのかなって思って。」
「べつにいいんじゃねーの。
貴族のやつらと話すのもいいけどさ、一般人というか平民というか
そんなやつらと話すほうが楽しいし勉強にもなるからな。」
「そうなんだ。
こっちの王族は全然城外に出てこなかったから、そういうのってなんか不思議だな。」
そういったときフィルはどこかうらやましそうな表情をしていた。
「じゃあ、そろそろ入ろうぜ。
ハーネス、いるか?
俺だけど入るからな!」
そういうとレイドは家の中に入っていった。
「なんか勝手に入ったみたいだけどいいの?」
「いいの、いいの。
俺の別荘みたいなものだから。」
そう言っているとこの家の主がでてきた。
黒の髪を持ち、細身の体系の持ち主である。
顔は厳しそうな顔をしており、かけているめがねがそれを際立たせていた。
そして、どこか機嫌が悪そうである。
「レイド、何度も言うけど人の家に勝手に入るな。
何が別荘みたいなものだ。
だいたい俺はお前よりも年上なんだから少しは人生の先輩として敬ったらどうなんだ。」
「相変わらず細かいことにうるさいな。」
「全然細かくないと思うのだが。
ところで、そちらの方はどなただ?」
「バベル島からきたフィル・クレスターという人だ。」
それを聞いてハーネスは驚くかな、と思ったがまったく驚かなかった。
「驚かないのか?」
「町でもう噂になっているからな。
それより教えてほしいんだが、フィルさんの地位は何なんだ?
姫だの一般人だの実は宇宙人だの色々なうわさが立っているんだが、真実が知りたいんだ。」
それを聞いたフィルは苦笑していた。
「さすがに宇宙人はひどいと思うな。
空軍の少佐よ。
だからテスト飛行のときに抜け出してここまでこれたの。
あとさ、ハーネスも私のこと呼び捨てでいいわよ。
これから旅する仲間なんだから。」
それをきいてハーネスは不思議そうな顔をしていた。
「旅って何のことだ?」
「俺らこれからラーグランドに行くんだよ。
それでその旅にお前もついてくることになってるの。わかった?」
「そんな急に言われていけると思ってんのか?」
それを聞くと、どこか楽しそうにレイドは答えた。
「思ってるよ。
だってお前どうせ暇だろ。
それにラーグランドのほうにまだ未開の遺跡があるっていうじゃん。
そこ見たかったんだろ。なら行くしかないじゃねーか。
「わかったよ。
なら準備するからすこし待ってろ。」
そう言うとハーネスは準備のために家のどこかに行ってしまった。
「俺らも少し買い物してくるからあとであの場所でな。」
「じゃあ、またあとでな。」
その返事を聞くとレイドたちは家の外に出て行った。
「あの場所ってどこのこと?」
「後でいけばわかるよ。
別に面白いところではないけど、それまでは秘密にしておくよ。
そのほうが楽しいだろ。」
「わかった。
楽しみにまってるね。」
そうやって話していると雑貨屋の前に着いた。
そこはかなり小さい雑貨屋だった。
「ここ、俺の行きつけの店なんだ。
さ、中に入ろうぜ。」
店の中は小さいながらもそのスペースを存分に生かし、敷き詰めておいてあるものの、
かなり見やすかった。
「お、レイド久しぶりだな。
ここのところ姿を見せないからさびしかったぞ。
で、その隣にいるのは誰だ?
まさか、うわさのバベル島の・・・」
「関係ないよ。
まぁ、友達みたいなもんだ。
それで、こいつとハーネスとで少し遠くに行くんだけど、薬草やらを売ってくれない?」
「いいぜ。
ところでハーネスは元気か?
あいつ暇なくせに少しも顔を出しやしない。」
「ああ元気だよ。
そうでなきゃ旅なんて出れないしな。」
その後もレイドは会話を続け、買うものを買うと外に出て行った。
ちなみにその間フィルは正体がばれないようにとほとんど話さなかった。
「ここの住民ってみんなレイドのこと呼び捨てなの?」
フィルの疑問はもっともなものだった。
言うなれば日本国民全員が天皇の目の前で呼び捨てするようなものなのだから。
「さぁ、でも4分の1くらいじゃないかな。
俺さ、小さいころとか結構悪さして回ってたからその名残かな。」
「ほんとにうちの国とは対照的な国ね。
ある意味うらやましいわ。」
「確かに、そっちは色々大変だもんな・・・
だから早いとこラーグランドにつくようがんばろうぜ。」
そう話しているとハーネスの姿が見えてきた。
3人は軽く会話を交わすとそのまま中に入っていった。
その中は墓地でいくつもの墓が整然と並んでいた。
そして、その中にひときわ目立つ墓があった。
レイドとハーネスはその前で黙祷し、フィルもあわててそのまねをした。
少したつとレイドが口を開いた。
「母さん、久しぶり。
これから少し遠出するからその間父さんたちのことよろしくな。
帰ってきたらまた来るよ。」
続いてハーネスも
「父上、母上久しぶりです。
私もレイドと一緒にいくことになりました。
では、帰ってきたらまた報告に参ります。」
その後、もう1度黙祷し、その場を去った。
墓地を出るとフィルが口を開いた。
「2人とも、1つ聞いていい?」
「両親はどうしているか? だろ。
俺の両親を、レイドは母親をなくしたよ。
ちょうど2年前に、はやり病があってそのときにさ。」
3人の間に少しの沈黙が走った。
「そうなの、実は私も母をなくしているのよね。
小さいころだからよく覚えてないんだけどさ。
それで、あと1つだけ聞いていい?」
「別にいいぜ。」
そういったのはレイドだった。
「えっと、2人の肉親って同じ墓の中に入ってるの?」
その質問に答えたのはハーネスだった。
「ちょうどうちに墓がなくてさ、それでレイドのところがご好意で入れてくれたんだよ。
うちって正直金がないからさ、
葬式やったら墓まで作れなくなっちゃってさ。
確かに反対するやつもいたけど、俺とレイドが仲いいのはみんな知ってたから
さほど問題はなかったよ。」
「今度は俺のほうから質問していいか?」
「いいわよ。」
「なんかお前って王族がどうこうとかばかり気にするよな。
何かあったのか?」
確かにレイドの言うとおりだった。
フィルは何かと「王族が〜」という質問が多いのである。
それに対して、
「ただ、うちの国とだいぶ違うんだなってね。
前にも言ったとおり、うちの王って全然外に出なかったんだ。
それにたまにでできても国民を弾圧してたんだ。
ただそれだけの理由だよ。」
「まぁ、それならいいけどさ。」
3人はその後たわいもない雑談を続けていた。
そうしているうちに城門が見えてきた。
「いよいよ外だな。
初めてってわけではないけどやっぱり緊張するよな。」
そういったのはレイドだった。
「そうだな。
外にはモンスターもいるわけだしな。」
「でも、一刻も早く城に着くよう急ごうね。
いつ攻められるかわからないんだからし、国民も私を待ってるはずだから。」
「ああ!」
レイドとハーネスは同時に答えた。
そして、城門を出て行ったのである。