0.2004年 冬
「突然ですが、みんなに悲しいお知らせがあります。
本日をもって・・・楠木遙さんが新潟県の方に転校することになりました。
クラス中にどよめきがはしる。
教師がそれを制するも、さして効果がないようだ。
「仕事の都合だそうです。
今日の放課後にでも送別会を開くことにしましょう。」
嘘だ。嘘だ。嘘だ。
そんな事、聞いてなかった・・・
何も、言えない。行動を起こせない。我ながら見事なへたれっぷり。
彼女は、去っていった。
少しだけ、寂しげな笑顔を残して・・・
1.2006年2月
僕、洋輝。
いや、実際の会話では一人称は”俺”だし、”私”になるときもあるけど、とりあえず僕にしておく。
えっと・・16歳。
自己紹介をしろっていわれたら・・・
ごく普通のコウコウセイなのかなぁ。
勉強はまぁまぁ、スポーツは・・ちょっとニガテ・・
どっちかって言うとネクラな人間になるんだろうなぁ。
・・・そりゃ、仮にも青春時代だから、恋の1つや2つだってする。
かつては、素晴らしいと思うアイドルなんてのもいた。
でも、今は・・・
ちょっと、わけありなんですね、これがまた。
そんなわけで、帰宅してから僕はまたパソコンに向かっていた。
両親は帰りが遅い。
まぁ帰ってきたら帰ってきたでかわるわけじゃないけど。
まだ春には遠いから、外は暗い。
どことなく、今の僕の心を表現しているような薄暗い闇だった。
1通の着信メールがあります♪
送信した相手を見ると、mikiさんだった。
・・・ちなみにmikiというのはハンドルネーム。
僕はハヤテというハンドルネームでメールをやりとりしていることになっている。
このテの人間は結構多く、僕のアドレス帳の半分はそんな人達で埋まっている。
文体から見る限り、mikiさんというのは少し地方に住んでいる、女性らしい。
年齢は高校ネタが多いから、”秘密〜”とか言ってるけど高校生だろう。
to: hayate
from: miki
message: ねぇねぇ、はやて君の方こそ、今彼女とかいないの??
そういえば、昨日はいろいろと彼女の色恋沙汰を聞いたのだった。
今度は僕から聞き出し、楽しんでやろうという訳か。
to: miki
from: hayate
おあいにく様。
message: 非モテ男人生を突っ走ってるからそんな事とは縁がないんだよ。
思いっきり本当のこと。
友人とかもそう決めつけて自慢話を繰り広げるからたまったもんじゃねぇよ。
ディスプレイを見ると、すぐに返信が来た。
どうやら、パソコンを付けているらしい。。
to: hayate
from: miki
message: うそっ!!
じゃぁ好きな人とかはっ!?!?☆
・・・う゛。
mikiさんも痛いところをついて来るなぁ、と苦笑しつつ。
俺はまた記憶の一片・・・苦い思い出に分類されるであろう過去と邂逅してしまった。
・・・ずっと、遙の事が好きだった。
自分の気持ちに初めて気づいたのは、中2になってからだったと思う。
だいぶ遅い、僕の初恋。
そのころから・・・なんとなく話しにくくなって、それでもいろいろと理由付けて気に入られるようがんばったり・・
けなげすぎて、虚しい気持ちになってくる。
いろいろな思い出。
小学生からの幼なじみ・・・
でも、思い出は所詮過去のこと。
過ぎ去った時間は、戻ってこない・・・
あの日。
遙が転校した日。
僕は何も言えなかった。
”さよなら””今までありがとう””寂しくなるな”
そして・・・”好きだよ”・・・
言いたいことが何1つ言えないまま、彼女は行ってしまった。
で、ジ・エンド。
あどけない初恋話オワリ。
虚しさを通り越して不愉快になってきたので、mikiさんに僕のヘタレ話を洗いざらいぶちまけることにした。
・・・これじゃ酔っぱらいオヤジだ、僕。
to: hayate
from: miki
message: アハハハハ^^;
じゃぁその遙ちゃんとやらがいなくなってその時点で君の恋は終わっちゃったわけだ。
うーん、ドンマイとしか言いようがないけど・・
まぁいいじゃん。
長い髪の初恋の少女は永遠の夢の中ってヤツだよ☆
・・・・この人、完全に楽しんでやがるな。
だいたい、最後の1文はなんの意味があるんだよ・・