かつて、ゲーム業界が任天堂一色だった頃、全国のおもちゃ屋には、「ディスクライター」と呼ばれるものが置かれていた。
それはたった500円で新しいゲームを入手できる、夢のような機械だった。
おもちゃ屋の一角を占めるモニターのついた四角い箱に、見る者は畏敬の念を抱いた。(かなり誇張)
しかし…彼らはいつしかその姿を消していった。スーパーファミコンの時代が到来し、彼らは惜しまれつつも消えていったのであった。
なぜ彼らは消えねばならなかった?答は単純だ。ディスクシステムの性能限界。
発売して1年たらずでROMカセットに性能を追い抜かれていた彼らが生き長らえたことこそ奇跡といえる。
しかしその最後期には、かの「ぷよぷよ」が新作で登場している。書き換え販売で500円というのは今考えると恐ろしい話ではないか?
・・・時は流れ、1997年。ディスクライターは再びやってきた。
スーパーファミコンのカセット書き換えサービス、ニンテンドウパワーの登場である。
スーパーファミコンの後継機といえるニンテンドウ64はすでに発売されており、ROMカセットに追い抜かれた後のディスクシステムのような状況であった。
スーパーファミコンの書き換え・・・これが夢のようなサービスかと言うと、そんなこともなかったりする。
まずソフトが意外に少ない。種類は多いのだが、そのほとんどは既にROMカセットで発売されてるだけあって、あんまりやってみようという気にさせてくれない。
しかしNP専用カートリッジが高いのが何よりも厳しい。古いソフトなら中古で買ったほうが安いのだ。新作もあるけど、わざわざやりたいってほどでも・・・
私もつい最近までニンテンドウパワーに手を出してなかった。ところが意外なところから道は開けるものである。
・・・ウィザードリィ外伝IV。
ゲーム観の変化から、どうしてもプレイし直してみたかった(そしてやっぱり印象の変わらなかった)、わが生涯最強唯一のクソゲー!こんなのが中古で買い戻すと激烈に高い(6000円くらいだが)という事実は驚愕に値するものであった。その点NP版なら新品のカートリッジ込みでも1000円ほど安かった。プレイ後は書き換えてしまえばもう少し得をする。
なに?外伝4はレアだ?書き換えがちょうど終わったって?知ったことか。
ジルフェのバグが発現しないから、もしかして西洋編に入ったのが原因ではないかと思って、キャラを全員デリートして初期化して確認したんだぞ?思い入れなんてゼロさ!(薄情)
そんなわけで、今回取り上げる「リングにかけろ」は私にとってウィザードリィ外伝4の後継作である。なんとなく気になるけど、手を出すのがためらわれる「新作ソフト」の一つさ・・・
「リングにかけろ」は98年書き換え開始のNP用新作ソフト。車田正美の同名のボクシング漫画が原作だ。メーカーは「日本コンピューターシステム」。メサイヤのことらしい(よく知らん)。
電源を入れるとメサイヤのロゴの後、デモ画面。必殺パンチで吹っ飛んだり、空中に舞い上がったり、残像を残して攻撃を避けたりするキャラクター。原作のテイストがギンギン伝わってくる。
しかしその直後、驚愕の記述が!「1995メサイヤ」95年?!
慌ててニンテンドウパワーのページを調べてみる。やっぱり98年の新作だ。
どうも、完成したけど発売中止になったソフトが再生してきたものらしい。このゲームはてっきり「往年ジャンプブーム」のはしりなんだと思ってたら、もっと前にできていたのだ。「なぜ今ごろ」系のキャラゲーだったわけだ。
このゲームはとても不思議なジャンルだ。ゲーム内容が説明しにくい。
ボクシング漫画だけあって、一対一のタイマン勝負なのだが、パンチで攻撃する格闘アクションではない。
試合が始まると、2Dのリング上でジャブ(Rボタン)の撃ち合いとなる。しかしジャブはダメージにならない。
ジャブを当ててパワーをためると、ストレートやアッパーなどの基本攻撃を繰り出せるようになるのだ。攻撃シーンになるとキャラクターがアップになる。
基本攻撃は8種類。ストレート(Aボタン)、アッパー(Xボタン)、フック(Yボタン)、ボディ(Bボタン)がそれぞれ左右ある。ボタンを短く押すと左、長く押すと右になる。
…とてもわかりにくい。
相手の基本攻撃に対しては通常のパンチで対抗するほかに、「防御」(L+R)、「スウェイ」(L+十字)、「カウンター」(L+パンチ)の3種類の行動ができる。防御はそのままパンチの威力を減らす。スウェイは攻撃を避けてノーダメージにするが、バランスを崩して不利になってしまう。
勝利の鍵を握るのはカウンターだ。敵の攻撃に対し逆に大ダメージをあたえる。これもジャブで稼いだパワーを消費し、相手のパンチとおなじボタン(8パターン)を押すと反撃が成功する。
もちろん「リンかけ」なので、必殺技を忘れてはならない。こちらは通常パンチとは別の「ボルテージゲージ」をためて使用する。ボルテージゲージは敵からダメージを受けたり、リング上でセレクトを押しているとたまっていく。(セレクトを押している間は無防備でジャブを食らうと気絶してしまう)
そしてLボタン+十字キーで必殺技が炸裂(十字キーの方向によって違う技)。相手を吹っ飛ばす必殺ブローだけでなく、声援を受けてパワーアップなんてのもある。
こんな駆け引きでダメージを与えていって、体力がなくなったほうが敗北する。
どんなゲームかわかっただろうか?雰囲気がSFCの「幽遊白書」の独特のシステムに似てるけど、やっぱり全然違うし…
試合の流れを説明すると、「ジャブを撃ちつつパワーをためる。相手が離れたらボルテージをためる」「適当な所でパンチ。カウンターされないように気をつける」「敵のパンチにはカウンターか防御」「チャンスがあれば必殺技」って感じ。わかる?
で、実際にやってみるとなかなか軽妙な演出がいい。パンチをかわして余裕の表情を浮かべるが、次の瞬間ほっぺたが切れて「なにっ!?」。必殺技をかわしたと思いきや「ぶばっ!」血を吐いてダメージ。マグナムの風圧で壁がコナゴナに。ブーメランでリングマットがさける。アッパーを食らって「竜児が 死ぬぅーーっ!!」と天井へ一直線・・・
さらには気絶したところに必殺ブローを叩き込み、そのままリング外にふっとんで窓を破って場外KO(体力に関係なく問答無用で決着)・・・いちいち「で、出たーー!!」とか叫ぶ観客も原作の雰囲気を発揮している。
「リングにかけろ」といえば、その強烈なストーリーとキャラクターであろう。って、このゲームをやった後ではじめてまともに原作を読んだのだけど。
本作にはストーリーモードがある。強烈な原作を適当に切って組みなおしてある。
原作の説明はいまさら面倒だが、基本的には典型的なジャンプ漫画で、その中でもかなりのレベルに位置する(たぶん、草分け的存在)。最初はわりかし普通のボクシングだったが、やがて『ボクシング』という名の超能力を使う戦士たちの漫画へと変貌していく。
で、組直しってのは、具体的にはチャンピオンカーニバルと都大会がいっしょくたになってて決勝が剣崎戦であるとか、アメリカ戦が世界大会の第一試合になってたりとかいう意味。
ついでに、アメリカ戦に剣崎が間に合わず、「選手登録だけして」って進めて、アメリカのシャフトを倒すと「やつの言ったとおりだったぜ」と後ろから剣崎がやってくる・・・という、原作に存在しない名シーンを追加している。あまりにもジャンプ漫画的で違和感が全然なかった・・・他には試合中にブーメランテリオスを編み出すシーンとか。(一部、原作では後で登場したパンチが使える)
基本的には原作といっしょだが、適当に削ってある。アメリカはシャフトひとりで最凶死刑囚チームは出てこない。イタリアも闇討ちシーンは再現してるものの、ジュリアーノひとり(他の名前もないメンバーが出てくるわけはないが)。全員同じ顔のフランスはセリフまでいっしょのメンバーが3人だけ登場。ドイツは原作どおり総統スコルピオンと天才ヘルガと手抜きっぽい包帯グルグル巻きの色違い3人・・・というかゲーリングまで同じ顔になってる。原作より手抜きだ。
がしかし手を抜きたい気持ちは判るというもの。決勝ギリシャも顔は違うが性能的にみんないっしょだもんね。
もちろん原作どおりヘルガのフォルコメンハイト(完璧)な計算式も、ギリシャ戦でつぎつぎ死んでいく黄金の日本Jrも再現。
そして本作は世界大会で一応の終幕をむかえる。その後のギリシャ12神や、不死身の阿修羅一族や、世界チャンピオンジーザス・クライストとかは出てこないのだ。
エンディング。樹海の真ん中に並ぶ日本Jrの墓(原作どおりだ)。
そこで終わってるのだが、しばらく待ってみる。と、影道総帥(しゃどうそうすい)がやってくる。空を見ると12神の黄金のヘリコプターが・・・
かくして「TO BE CONTINUED・・・?」で終わる。
・・・と思いきや、もうしばらく待つと、そこで異変が!ヘリコプターのドアが開いて、「お前ら死んでる場合じゃねえ!」と、隠しキャラが登場する。
その男の名は・・・車田正美。いわずと知れた原作者だ。
*このキャラクターはジャンプコミックスの「実録!神輪会」収録「リングにこけろ」を原作としている。ストーリーは、車田正美率いる神輪会が、剣崎にバレンタインチョコレートを取られたので、仕返しに黄金の日本Jrに戦いを挑む、というムチャなもの。ギリシャ戦のパロディで、つぎつぎ死んでいく神輪会のアシスタントに観客からは「さっきからおんなじことの繰り返しだ!」とブーイングが飛んでくる。愛読者賞一位らしい。こんなの描いてたんだね・・・
さて車田正美だが、当然弱いのでさっさと倒してしまう。やはり原作どおりに死ぬ車田正美。
こんどこそおしまい。車田正美の出現コマンドが表示される。
・・・と、影道総帥が登場してるのは意味がある。ストーリーモードとは別の勝ち抜きモードでは影道一族が関わってくるシナリオになって、最期に総帥と決戦になる。
「剣崎先生!じつはこれには深いわけが!」とあやまって気をそぐことしかできない車田先生と違い、影道は強力だ。影道龍極波で動きを封じて(回避は困難)、影道冥王拳で「旗につつまれたーー!」のクリティカルKOという地獄の連続攻撃を持っている。サギだ。勝つと出現コマンド表示。
このゲームはうまく原作のテイストを表現できている。
・・・だけどなんかものたりない。
おなじみ、Mrメモリの解説を引用してみよう。
ちょこちょことジャブを当てて行動ポイントを溜め、命中率の高い左パンチ(+行動マーク押し返し)で確実にダメージを与える。相手の攻撃はブロックし、ダメージ&バランス減少を最小限に食い止める、と、一応これがこのゲームの攻略法です。
Mrメモリ、聞いてもないのに攻略を語ってます。しかも、これがかなり的確なんです。こんな数行で攻略は十分なんです。
必殺技は恐ろしく大振りなため、実戦ではそう簡単にヒットさせることはできません。しかし一度当たるとスゴい!
「恐ろしく」ときたもんだ。そんでもって実際そうなんだな。なんか書いてはいけないことのような・・・
猛烈なアッパーで相手を天井まで打ち上げ、そのままKOとか、超威力のストレートで相手を場外まで吹き飛ばし、そのままKOなどなど・・・まさに一撃必殺、「凄い」を通りこして、「笑う」しかないような演出が用意してあるのです。原作ファンならば感涙間違いなしでしょう。
そもそもリングアウトがあること自体何かおかしいのですが、それすらも許さざるを得ない「一発の力強さ」が『リングにかけろ』という作品の魅力(魔力?)。
原作の本質をよくわかってらっしゃる。原作者じしんも後期以降はそういうところを目指してたようで、リングにかけろの再編集版「リングにかけろ1」では原作の人情話を大幅カット・・・
いや、私もそんなに詳しいほうじゃないから、この辺にしとこう。
Mrメモリ、WIZ外伝4と違って、結構的確なことを書いてるじゃん。というのが私の感想である。このゲーム、必殺技が使えんのだ。恐ろしく大振りで、半分以上命中しない。セリフを見るためにあるといっても過言ではない。まさに演出そのもの。
おまけに威力がたいしたことないのだ。ガンダムゲームでよくある、「ビームサーベルの威力が低いじゃん!」というやつである。ギャラクティカマグナムが炸裂しても体力の1/4程度を削るだけ。普通の格闘ゲームなら十分過ぎる威力だが、リンかけで1/4なんてダサい威力ではなぁ・・・おまけに命中しないし。
原作を知らない人でも、友達を誘って対戦プレイをしてみてはいかがでしょうか?
結局、私は対戦プレイをしなかった。ただ、慣れないプレイヤーが戦うとブザマだし、慣れたプレイヤーだとカウンター狙いの待ち対決になってしまって面白くないんではないかな。
カウンターに対抗する手段がとにかく無いのよ、このゲーム。CPUもカウンター狙いの敵はムチャ強いし、通常パンチを撃ってくるやつはカウンターでイチコロだし。そんでもってカウンターは難しくない。相手のパンチを確認してからで十分コマンドが間に合ってしまうから。操作ミスはあるけど・・・
他にもこのゲームはなんとなくパッとしない。声があるのはいいけど、音質がヘナチョコだったり、同じ声を流用してるキャラが多かったり(ドサンピンが!を連発する剣崎はいいんだけど、それが車田先生と同じとは)。キャラクターが多い割にみんな同じ技だったり(ゴッドディメンションとスコルピオンクラッシュとか、絵も流用してる)、同じ顔だったり(原作どおりかもしれないが)。操作がうまくいっても見えないパラメータのせいでパンチ失敗したり。
発売中止になった理由がなんとなく判った。容量もメモリ5ブロックと、かなり多め。そのくせセーブなしでパスワード式だったり。
それこそ「ディスクライターの隅っこに並んでるタイトル」という感じなんである。書き換え料ぐらいは楽しめる、というかクオリティが低いわけではない、が・・・
それにしても、NPの「新作」ソフトに再生怪人ソフトの多いことといったら!ちょっと驚いた。その中でも特に珍しい(と思う)、発売中止タイトルに興味はあります?
「このくらいのクオリティのソフトがいくつも消えていったんだよなあ・・・」と思いを馳せてみたり。
かくして、このゲームも後日書き換えられた。そのうちプレイしたかったWIZ123に。外伝4以外のWIZはおおむね好きなんだ・・・