レーシングラグーンの呪い

このタイトルは今更語るにはあまりにも有名すぎる。この文章はラグーンファンにとっては常識的なことしか書かれていないかもしれない。我慢してもらいたい。

 現在の所このゲームは私のゲーム観にもっとも多大な影響を与えた作品だ。
 とりあえず知らない人の為に基本的な情報を書いておく。

レーシングラグーン
 1999年スクウェア
 機種:PS
 ジャンル:HighSpeedDrivingRPG

 おさらく知らない人はピンとこないと思う。ジャンルが奇妙ではあるが。「またスクウェアか…」などと思わないで欲しい。私はこんなのしかやってないのだ。

1ST:レーシングラグーンとの出会い

 99年、何気なく「プレイステーションマガジン」を読んでいた。編集長が自分のコーナーであるゲームについて書いたところ、スクウェアが難癖をつけて「聖剣伝説」の取材を拒否したという話が載っていた。あるゲームというのが「レーシングラグーン」であった。

 編集長の書いた内容は「レースとRPGの融合というが、レースゲーム部分とRPG部分がはっきり分かれていて、既存のシナリオつきのレースゲームと大差ないではないか」という内容。…だったと思う。何しろ2年前のことさ…

 聖剣の取材拒否は本当にひどい話だ。ぜんぜん関係ないタイトルだからだ(開発部は近いようだが)。取材拒否するのならレーシングラグーンのほうをやればよいではないか。とにかくこの件は聖剣にもラグーンにもマイナスになったのは間違いない。
 当時アンチスクウェア精神が抜けきってなかった私は「ああ、ここの広報バカだなー」とか思ってたら次の号では和解ムードになっていた。そしてこの件は記憶から消え去る。(聖剣はちょっと興味あったけど、随分と後まで手を出さなかった。ちなみにスクウェア広報は今でも問題あると思う)

 しばらく経って、かの「超クソゲー2」にもラグーンが載っていた。しかし、たいしたことは書いてなかったのでまったく印象に残っていない。

 もう少し経って…心境が変わってきた私は「サガフロンティア2」を購入する。サガフロ2は「スクウェアミレニアム」とやらで再販されていたが、「聖剣伝説」体験版の付いてる旧仕様のほうが興味があった。そこにレーシングラグーン体験版も付いていたのだ。しかも聖剣よりこっちがメインに据えられている…

 ラグーン体験版、プレイの感想。「編集長、あんた間違ってるよ。これのどこがレースゲームなんだ

 とにかく操作性が悪い。レースゲームなんてやった事もなかった私だが、それでもこのゲームのひどさはよくわかった。曲がらん、または曲がりすぎる、ぶつかってすぐ止まる。
 操作性だけではない。ロードが遅い。イベントを見たらエンディングというので、街の施設を回るが、敵と遭遇しても勝ち目はないし時間がかかるのでひたすら逃げ回った。エンディング前に河津秋敏さん(サガシリーズのディレクター。ラグーンのプロデューサー)がボスキャラとして登場したのは笑ったが。
 いや、笑ったのはそこだけではない。奇怪なポリゴンモデルの登場人物が奇妙なモーションでカクカク動きつつ、「てめえのレジェンドもここでTheEnd」とかインチキ英語まじりで会話してくれる。そして話の流れを無視するかのような突き放してクールな主人公。「伝説が蘇る夜か…くだらねえ」

 体験版だけでカクカク動きやインチキ英語、そして「そうさ…」を多用する主人公のセリフ、パーツをぶん取る無体な設定など、かなりイカレた世界観に結構はまったが、「このゲームは間違いなく地雷だ」というのを確信したし、体験版で思わせぶりなセリフ(「…この続きは…本編をプレイしてみてくれ…」など)が多すぎて、所詮スクウェアゲーム、肝心のストーリーがたいしたことないんだろうと、タカをくくっていた。…どんなのか気にはなっていたが。

 そして2000年末。「美食倶楽部バカゲー専科2」が発売される。その冒頭を飾ったのが「レーシングラグーン」だった。人が死ぬストーリーが解説されていた。

 …俺は間違っていたのか…?それからしばらく後。私はついにレーシングラグーンに手を出す。発売から2年近くが過ぎ去っていた…

 前置きと一言はここまでにしよう。

2ND:最凶のRPG

 結論から言おう。このゲームは完璧だ。あえて言おう、パーフェクトであると。

 レーシングラグーンは「ハイスピードドライヴィングRPG」なる聞きなれないジャンルだが、単にレーシングRPGと呼ばれる事もある。

 その内容は「レース部分だけでなくてイベントシーンがある」なんて生易しいものではない。プレイヤーは愛車で夜の横浜を走り回る。あたかもRPGのフィールドのように。
 そしてフィールドの要所にはガソリンスタンドをはじめ、数多くの施設がある。ここで会話して情報を得たり、時にはアイテムをもらったりもする。ここもRPGらしい。旧来的だが。

 しかし、その程度ではまだRPGということはできない。このゲームはフィールド上にプレイヤー以外の車が走っている。こいつらが全てこのゲームの敵モンスターだったりする。
 こちらから攻撃をかける(PASSINGする)のもいいが、向こうから突撃してくる場合もある。
 そして戦闘に入るとそこはレースバトル。街の一角を封鎖して敵とタイマンでレースする。しかし通常のレースと違い、RPGだけあって、テクニックでカバーするよりも、強力なセッティングで押し切ることが多い。逆に、レベル上げ(いいパーツの入手)さえすれば、テクニックが低くてもある程度なんとかなる。
 レースに勝つと、敵車からパーツを奪い取れる。これでパワーアップできるわけだ。ただし、いいパーツを持っている車は当然強い。レースゲームだけあって強い車に勝つにはテクニックが必要となる。レベルを上げるだけでも大変なのだ。何度も強敵に挑戦するのもいいが、負けるとこっちのパーツも取られるからそうもいかないのである。ローディングが異常に遅いのでリセットも避けたい。

 そしてタチの悪い事に、主人公の最初の車はどうしようもなく性能が低いのだ。よって最初はろくに見分けも付かないザコ敵(軽ワゴン車)を相手にレベル上げとなる。序盤に耐えられるかがこのゲームを楽しめるかどうかの分かれ目だろう。

 まったく現実感のないシステムだということは判っていただけただろうか。それにしてもボディカラーやポート研磨を奪い取るのはさすがにどうかと思う。

3RD:横浜最速伝説の謎を追え …遅いやつにはドラマは追えない

 実の所、このゲームがRPGかどうかなど些細な問題に過ぎない。このゲームは演出面こそ真に恐ろしいのだ。

 このゲームの舞台は1999年、現実の横浜に良く似た街「横浜」。だが似てるのは見た目だけだ。ここは走り屋たちが支配する恐怖の世界だからだ。

 主人公:赤碕翔は、走りの才能を見込まれて、横浜の走り屋チーム、ベイラグーンレーシング(BLR)のリーダー:藤沢一輝に誘われて、走りの熱さに目覚めていく。そして数多くの走り屋たちと出会い、戦って、時には犠牲を払いつつも、やがて10年前の「横浜最速伝説」とそれをめぐる巨大な陰謀に巻き込まれていく…

 伝説、巨大な陰謀。まるでRPGのStoryではありませんか。「俺たちは剣をエンジンに…鎧をエアロに武装したSTREET WARRIOR」という体験版のセリフがそのまま本編に当てはまっている。

 そしてこのシャレにならないストーリーを無駄に盛り上げるのが、主人公をはじめ、これまたむやみに個性的な登場人物たちのセリフ。「ケッ、てめえグッドラックだな」「それがKTH!清き正しき走り屋道ってもんだ!」「君にはApologizeしなければならない」

 このゲームでもっとも強烈なキャラクターは主人公の赤碕だ。性格は超クールでプレイヤーの感情移入を拒否するが、FFみたいに何か精神的な弱さの裏返しとかではなくて、本当に地でCool、おまけに馬鹿であることに気付くと気にならなくなる。セリフの最初に「そうさ…」をつけるのと、「冗談じゃねえ…」で落とすのが口ぐせで、独り言が異常に長い。なにしろこの物語は基本的にこいつの一人称で展開するのだ。このゲーム文章量じたいも多いのに、大半はこの自己陶酔ポエムで埋められているのだ
 残りの部分も基本的にインチキ英語(TAIMAN BATTLEとかHASHIRIYA’S HOLYPLACEとか)を多用する。英単語の半分くらいがAlpahbet表記なのも異様な世界観をより強めている。

4TH:パクリ疑惑

 テンションの高いキャラクターがさらにストーリーを盛り上げる。ところでこのゲーム「頭文字D」の影響をあからさまに受けているが、それだけではない。本作にもっとも多大な影響を与えたもの…それは間違いない、「FinalFantasy7」

 この2作品、共通点が多すぎるのだ。声が聞こえる主人公。Projectの犠牲となり死んでいく走り屋(ソルジャー)たち。蘇る10年前(2年前)の記憶。自分もDriver(セフィロスのコピー)なのか?とか思ってたら似てるけど違ったという展開。

 最後は社長が死んで、残ったシュナイダー(宝条)が黒幕的に立ちふさがる。

 ()内がFF7。「ジェノバ」を「Diablo」に置き換えるだけで共通点がたくさん浮かぶ。他にも「北海道にDiabloを知る男がいたが、どうする事も出来ずに射殺されてしまう」くだりはFF7でもほとんど同じイベントが存在していた。

 この説を「こじ付けくさい」と思う方もいるだろう(Disk3からが説明できんし)が、どっちにしろラグーンのストーリーがシャレにならないのは判っていただけただろう。

LAST:ゲームを超越したもの「HighSpeedDrivingRPG」

 このゲーム、本当にテキスト量が圧倒的に多いのだが、それに魅せられて全セリフ集を作っているサイトまで存在する。私も半分くらい口ぐせになってしまっている。ここまでさせる魅力はなんなのだろう。

 ただテキストが多くて優れているだけなら、ゲームなんかしないで小説でも読めばいいだけの話だ。しかし本作のテキストが決定的に小説的でないのは、情景描写がほとんどないことだ。

 描写が必要ないのは当然、画像で説明しているから。ただしこのゲームの画像はスクウェア的「綺麗」「リアル」とは少し違う。とても人間に見えない異様な体格の人物モデル。トラックやバスをはじめ、むちゃな改造で生まれた異形の車両。そして夜が舞台だけにいつも真っ暗な画面。
 それから、赤碕の意識の中で見える「横浜最速の男」がぐるぐる回ったり、顔が迫ってきたりするシーンはもはや怪映像の域に達している。
 このような映像のパワーでテキストは大きく補強されている。よけいな説明も減らす事が出来る。その分をやたら長いセリフに変えているのだ。

 …もっとも、セリフだけ見てもヘタな小説より遥かに破壊力があるんだけど。

 このゲームは稀に見る「テキスト系RPG」なのではないか。圧倒的な量のテキストを中心に、音楽やグラフィック、そしてパーツ強盗を中心とした腐りきったゲーム性、長いロード時間さえも全てが演出となっている結果が本作ではないのか。そしてこれがRPGともレースとも呼べなかったからHighSpeedDrivingRPGと名づけたのではないか…

 破壊力のある文章で楽しませるけど、ゲーム的な側面を持つことで小説とも違う。それがこの作品だ。一般受けしない設定があってこそといえる。

FINAL:お薦めはできない…のか?

 このゲームの悪趣味な部分についていける人ならば楽しめる、と言いたいが、実はそうでもない。凶悪なゲームバランスはかなりの忍耐力を要する。もし今からプレイする気があるのなら忠告する。このゲームはクリアに50時間かかる。超大作RPGと思うべし。

 一応、攻略をまとめると、

 とまあこのぐらいだろうか。しかし、この程度はプレイしてれば自然に身に付く。レースゲーム無知な私でも根気があればこそクリアできた(まあ攻略本を使ったけど)。逆に忍耐がないといくらテクニックがあってもクリアできないと思う。だから別の角度からの攻略法はこんな感じになる…

 ようするに走れ。「破壊力」という観点で見るならゲーム史上でも最強レベルだろう。私は1980円で買ったが、趣味にはまった人なら定価で買っても損はない。…きっと、そうさ…

TIPS

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