残り数話だが、ちょっとわからなくなったガンダムSEEDを振り返るために、何かととやかく言われるキラについてとにかく振り返って、できる限りフォローしたうえでキラがどんなやつか考えてみた。リアルタイムで見たときの感想を重視しているが、やはり後で書いてるから少し違ってきていると思う。
ここで書いてるキラの心理は結構断定的に書いてるいるが、本編を見たうえでの私の主観に基づく推測であり、そう外れていないつもりではあるけど、監督インタビューとかと食い違うんだよなぁ…
キラ・ヤマト。
心優しく、ちょっと頼りなく、泣き虫で日和見な、ごく普通の少年。
しかし彼の能力は肉体も知性も「普通」を遥かに越えていた。それが彼の運命と、彼自身を変えていく。
ヘリオポリスのキラはどんなヤツだったのか詳しくは描写されていないが、とにかく優秀だったのは疑いようがない(さすがに、ね)。しかし友人達はそんなキラに対して、友人以上でも以下でもない、対等な関わりを持っていた。キラはここではコーディネイターだけど、ただの学生だった(ヘリオポリスのゼミがエリート集団だったという説もあるが、そうであったにしろ、キラは普通の少年だった)。そしてキラはただ成り行きで戦闘に関わっただけだった。あの状況での行動はキラが自分の能力に自信があったからともとれるが、とにかくキラは全員が生き残ること以上は考えていなかった。
キラがアークエンジェルへ来たのは、軍の論理に従ったマリュー・ラミアスに従ったからである(だから私はその後無責任にも温和になったマリューさんは大嫌いです。それと基地へ行ってなんらかの処分を受けるっていう「軍の論理」が後で消し飛んでるのも困りものだ)。キラたちはひとまずアークエンジェルに乗るしかなく、またキラは同じく乗り込まされた友人を見捨てるわけにいかないから、ストライクガンダムに乗ることになる。キラとしては友人を人質に取られているようなものだが、アスランのことも気になっていた。
アルテミスでは裏切り者のコーディネイターよばわりされ、フレイからの風当たりも強く、キラは連合にもザフトにも溶け込めなかった。ラクス・クラインとはその頃偶然出あったが、彼女の理解を得ても、フレイの父は守れなかった。そのことはキラにとって衝撃が大きすぎた。「本気で戦っていない」とのフレイの叫びは、事実かどうかなど彼にとっては関係ない。ただ、助けられなかったことが悔しかった。
キラはコーディネイターとはいえ、正規の軍のエリートであるアスランやイザークたちと比べて強いわけではなかった。アルテミスではアスランの動揺によるミスで事なきを得るが、次の戦いではラクスを人質に取るという卑劣な手で助かっただけだ。それでもアスランと同じ道を歩むわけにはいかなかった。友達がいる。もうこれ以上悲しみを増やしたくない。ラクスを逃がしたのも、単にそれが正しいと思っただけで、友人たちも同じ考えだった。
ここでフレイに変化があった。キラに対して敵意を剥き出しにしていたフレイが、突然謝ってきた。
そこでキラはどう思ったのだろう。彼女も理解してくれたのか?父を守れなかったことを許してくれたのか?まあいいか、って思ったのかもしれない。
そして、キラはようやく解放されることになったが、ここまでに守ってきたのは友人達だけではない。フラガたちとも知らぬ仲ではない。民間人たちを守ってきたのもキラだ。このまま自分は去っていいのか?迷えるキラは、友人達がアークエンジェルに残ることを知り、自分もそれにならうことにする。
出動するキラに対し、突然のフレイのキス。このときのキラの心境は……結構単純なやつなのかもしれないと私は思ったよ。
結局の所、キラはそれほど強い少年ではなかった。イザークの叫びは、キラの守りたかったものを、またしてもあっさりと奪い去る。
身も心もぼろぼろのキラを献身的に介護したのはフレイだった。キラはフレイに裏を感じることもなかった。ことはフレイの思惑通りに。ナチュラルにいいように踊らされるキラは、あまり人の裏を読むのが得意な少年ではなかったのか。
そう、フレイのことを避けて通るわけにはいくまい。とにかくフレイがよくわからずに持ってきた折り紙は例のシャトルの女の子がくれたやつ。キラのショックは消えない。泣くしかないキラを、フレイは悪魔のような笑みで優しく受け入れるのだ…
翌朝は同室で全裸のフレイ。
キラが何を思ったのか…ごめんなさい、想像できねえ!ここまでクソ真面目にキラがいい奴であると信じてきた私だが、このときキラが友人の恋人だかなんだかのうえに、ほんの数日前までラクス人質作戦を立案するようなコーディネイターの敵だったフレイを普通に受け入れるのは戦争でイカレてたからとしか思えん!
いや、案外そういうものなのかもしれない。戦争でキラはイカレてしまったから、もはやまともな判断能力もなく…のわりには結構余裕あるような感じなんだよなー。
これがこの作品が「シチュエーションありき」といわれる例のひとつだろう。「フレイと絡ませときゃ面白いだろう」っていう。そのためにはキラの心情もフレイの考えもどうでもいいと思われてるようでならない。
あ、後に明らかになる、「フレイの、コーディネイターに溶け込める特殊な才能(逆ディアッカ)」の片鱗がここでも発揮されてたのかもしれない。
とにかくキラはフレイの偽の愛で元気になって、砂漠のザフトを撃破する。フレイひとりで逆転できるほど、それまでのキラは孤独だったのだろうか。いや、やっぱ女で強くなったってだけかな。むしろザフトが弱かっただけだったりして。
サイの叫びもキラには届かない、どころか逆ギレ。いや、内心自分の非が分かるからこそ、それを認めまいとサイを見下すような発言したのかもよ。とにかくこれでキラは嫌われ者の主人公としての立場を不動にした感がある。ついでにこの辺のエピソードはミゲル総集編の時は削られている。まあいろいろ言われたし。
キラの砂漠での日々はなかなか壮絶だ。まず無謀なゲリラ、カガリをひっぱたくところから始まる。このときのカガリは本当に無謀なので、キラの行動は自然だったが、今になって考えると初期のキラよりも強気になってる。フレイが変えた、かなぁ…うーん。
キラに対するアンディの「敵を全部倒すしかないのか?」という問いかけも、正直言って誰でも考えるレベルの話であり、キラはそこまでも考えられないほど余裕が無かったのか、はたまた後先考えない直情バカだったのか…カガリの血縁ならありえるな、と今考えてしまったが、とにかくここらへんのアンディのヘナチョコさや、カガリたちのバカさがこのときのキラの説得力をますます弱くしていった気がする。直接会って共感もしたアンディをこの手で殺すしかなかったキラであるが、それをいつまでもいつまでも回想しつづけるから、視聴者はそんなキラに対してウザい以上の感想が出なってくるのだ…
いや、いやとにかくキラを変えたのは虎だ!虎の死のショックでキラはめきめき変わったよ!そうに決まってる。
そしてこのころになってキラはフレイに対して違和感を感じ始める。裏の無い人間であるカガリと出会ったせいもあるだろうが、フレイがもとのワガママ女に戻っていったのもあるのではなかろーか。けれどこの関係をそう簡単に切ってしまったら自分を認めてくれたサイへの面目が立たないし、いきなりではフレイにも自分にもよくない。でも続けるのも良くない。人間関係で悩むキラは、たぶんどこかで落ち着いたらフレイときちんとした話をするつもりだったろう。
で、先にフレイのほうが矛盾に耐えられなくなった。コーディネイターのキラは普通の少年だったことをフレイは理解してしまった。そしてオーブで親に会いにいかないキラの行為は、親のいなくなったフレイには哀れみのように感じられた。キラを見下しているつもりだったフレイが、キラから同情されるなどあってはならないのに。フレイはついにキラへの愛が偽りだったことを叫ぶ。(つまりこの頃にはフレイの偽愛は自覚がないまま真実に変わっているようだが、この過程はキングクリムゾンで吹き飛んでてよくわかんなかったりする)
実際にキラが考えていたのは親に会いたくないというのも強かったが、とにかくフレイの考えを理解しつつあった。もうやめよう、とキラは言う。そしてフレイとのきちんとした会話はそれっきりだった。これ以上の進展を見る前に、キラは一度死んで、その間にフレイはさらわれるからだ。決着をつけるべき事項のひとつだが、放置されている。この件もキラが嫌われる原因のひとつかと思うから、関係を修復するにしろ破棄するにしろ、とにかくもう一回再会して話をしてほしい。
キラが親に会いたくなかったのは、自分がコーディネイターであることに違和感を感じていたからだ。自分はあまりにも強すぎるのに、精神はただの子供にすぎない。たぶんフレイとの関係もそれを思い知る原因のひとつだ。そんななかアスランと再会。そして戦いに…。
そしてイザークたちがキラの敵でなくなったのもこのころ。実際には宇宙の後半あたりからイザークの立場は危うかったが、砂漠以降は完全にザコ扱い。キラを強くしたものは…フレイか?それとも砂漠の虎がはぐれメタルなみの経験値を持ってたのか?
トールとの共同作戦もあって、キラはアスランをも圧倒する。キラは強すぎたがゆえに、勢いあまってニコルを殺害。殺す気などなかった…のだと思うが、だとすると他のザコ兵士の立場はどうなるのだろう。キラにとってのザコ兵士とニコルの根本的な違いはなんだったのだろう。とにかくニコルだけはショックで、メカニックの出迎えにキラは突然怒り出す。ここがキラの矛盾したところのひとつだ。なぜニコルだけ特別なのか。とはいうものの、メカニックだって今までキラを出迎えるなんてのは皆無だったし、この状況はあまりにも不自然だ。まあなんだ、ニコルはアスランの友達だから直接知らなくてもショッキングだったってことにしとこう。(なんかキラを肯定したいのか否定したいのかわからなくなってきたぞ)
もちろんアスランは怒る。キラもそれがわかるから、アスランに対し本気で戦う。だがトールの死は予想外だった。
そう、ここでまた問題人物の登場だ。トール。ああトール。彼が何を考え、なんのために生きたのか。それは私には計り知れない。キラは友人をそれなりに大切にしてきたが、2クールではフレイとの関係がその妨げとなっていた。しかしそれ以前にトールは何者なのかさえ分からない。正直言って、ニコルですら書き込みが甘いが、トールはまずキャラクターになってすらいない。シャトルのほうがよほど衝撃的だ。だがとにかくトールの死は、アスランへの憎しみへと変換され、憎しみ頂点へと達したふたりは本気の殺し合いに突入する。そしてキラは敗北するのだ。トールとニコルの重みの差、とかじゃないと信じたい。
だがどうやってか知らんがキラは生き延びた。これはキラのせいじゃないが、じゃあ誰のせいだ?この不条理への怒りの矛先はキラ、さもなくばマルキオ導師に向くのだった。ああ。
キラが嫌われる理由のひとつとして、作品矛盾への憎しみエネルギーが解放されることなくキラに向かうことがある、というケースも覚えておきたい。つまりキラのせいじゃないが、キラのせいだ。
キラはプラントでラクスと再会する。ラクスは前と同じでいい人であった。キラと波長が合ったというのもあろう。キラはここで落ち着いて傷を癒すことができた(数日だけだが)。ラクスがガンダムをくれたときは、なぜ自分をそこまで信用するのか?という疑問よりも、ガンダムの性能やラクスの意外な権力、そしてアラスカでピンチに陥っているだろう仲間のことで頭がいっぱいで、そこまで考えられなかったというところだろう。そしてその疑問がいまだに視聴者の頭をうずまいているのだが、ここでは関係ねえな。キラは単純なんだよ!そう、沢木誠のシャツに「単純」って書いてあるくらい!(レーシングラグーンのネタが誰に通じるんだろうか)
そしてキラは倒すべき敵を知った。それが何かもいまだにわからないのだが、関係ない…わけにもいくまいな。やはり議会を裏切ってまでアラスカ攻めるようなアホ議長ってとこだろうか。キラは単純だからそれでもいいか。
それ以外の敵を殺すのはやめた。これはフリーダムの能力がストライクに比べて圧倒的に高いから、余裕の表れともとれる。殺さなくてもいい敵を殺すことはない。むしろ全機ロックオンして殺さずに全滅できるような無茶なメカがあれば、どんな人間だってそうするだろう。この無茶への憎しみエネルギーはフリーダムに向かうのである。もっともアラスカでサイクロプス前に無力化するのはひどい(そのせいで逃げ送れるかもしれないだろうが!)が、これはキラが単純だからそこまで頭が回らなかったか、サイクロプスが何か良く知らないけど逃げてたと考えれば罪は軽減されるだろう。
うん、キラをフォローすると、キラがどんどん単純バカになっていくようだ。実に良くないな。
アラスカの事件は、アークエンジェルの離脱を決定付けた。キラも連合を離れたアークエンジェルとともに行くのがいいと思って、オーブまで行く。フリーダムの整備を断るのは、フリーダムが危険で、それを扱う覚悟があることを強烈にアピールするためであり、決してナチュラルを信用していないからではない。たぶんその後はなんだかんだ言って整備くらいさせてるだろう。そう信じさせてください。
フレイがいなくなったことは悲しいが、その後は忙しくなって構ってられなくなった。当面のキラの目的は、オーブを守ることだった。連合やザフトよりはまだ信用できるからだ。知り合いだっている。ここで問題となるのは、オーブだって自国の軍事技術を連合に提供したりする危ない国だってことだが、たぶんその勢力はウズミ様に干されたってことでひとつ。…憎しみエネルギーはオーブとウズミ様に。
アスランがこのタイミングで来たのはうれしかった。予想したとおり、迷った様子のアスランに対し、とにかく助けてくれたのだから笑顔を向けるのは当然だ。親友同士の争いなんか間違ってる。友人を殺してしまったのは悲しい出来事だが、あのときの間違った自分たちはもういないのだ。単純に考えると、この罪を背負うのは後でいい。言葉足らずだからニコルのことで視聴者に誤解されたりしたけれど、アスランも納得してくれた。ちなみに私をはじめ納得してない人も多かろうが、憎しみはウズミ様にでも向けとこう。
オーブを守りきることはできなかったが、オーブの勇気ある行動にキラたちは正義をみた。もうオーブは危険な国ではなかった。オーブの内通者の協力で侵入した経験があるアスランやディアッカにとっても同じだった。オーブの変わり身はスゴイな。
キラたちはレジスタンス活動を続けることになる。そして現在にいたる…
振り返って、キラが嫌われる理由は、分かりきってたがやはり第一がフレイだと思った。しかしこの問題はフレイともう一度話し合って、その展開次第では許す人も多いと思う。でもそれじゃサイの立場がないから、サイとも話し合おう…でもきっとそんなシーンはないんだろうな。
だが許される可能性が残っているうちはまだいい。他の嫌われる理由は、理由無く強すぎることと、その強さが度を越えていることである。これは番組のゆがみだ。理由があるならいい。超サイヤ人になるためにはクリリンの犠牲が必要なのだ。でも一人も殺さずは超サイヤ人でも無茶です。強さには限度があります。強さ以外にもワープや不死身など、キラは矛盾の象徴のようですらある。
そして回想癖。これどうにもならんね。
最後は、何を考えているのかさっぱり見えてこないこと。さっきから行動を肯定するため単純な少年であるキラ像を捏造してきたが、悟った様子と食い違うではないか。アスランをどのくらい信じているのか?ラクスをどう思っているのか?本当の敵って、本当にパトリックやアズラエルなの?主役ばかりで脇役が薄いと言われるSEEDだが、キラじしんも説明不足なのだ。これからクライマックスにむけて、彼はどんな人物に落ち着くのだろうか。
キラは、可哀想かもしれない。
以下、最終話後の書き足し。(ついでにちょっとだけ修正した)
結局キラは何もできなかった。フレイを守れなかった。戦争を止めたのはキラたちじゃなかった。というか戦争はどうやら止まってない。
無理も無かった。キラは「倒すべき敵」を示すことができなかったのだから。
パトリック・ザラはただの兵士の裏切りで自滅した。アズラエルもナタルを抑えられず自滅した。
キラが倒したのは、ラウ・ル・クルーゼというひとりの怪人物だけであり、こいつを倒した所で戦局に与えた影響は、被害がちょっとばかり減るだけに過ぎないだろう(実際のところ、パトリックの死後クルーゼにできることなど無いような気がする)。
彼は無力だった。力も思いも中途半端。「友達を守る」だけだった序盤のほうが強かったぐらいかもしれない。
なぜだろう。
キラの思いは間違っていたのだろうか。
悟って以後のキラは、倒すべき敵を示すことはできなかった(「しなかった」のではないのだろうと思う)。これは漠然と「悪いやつら」って感じであり、結局答えを考えてる途中だったということだろう。一般の兵は「悪いやつら」か判断しかねるから殺さずにいたのではなかろうか。
だがその甘さ、すなわち正解から逃げたことが完全に裏目に出た。どうせ倒す相手なのだから、クルーゼをゲイツに乗ってた時点で倒しておけば核ミサイルは防げた。その流れでジェネシスも無かったかもしれない。(しかしメンデルでクルーゼが死んだら、フレイはラクスの攻撃でヴェサリウスごと死ぬかも)
オーブで3馬鹿やアズラエルを倒してしまえば、もっと簡単な話になったかもしれない。
クルーゼや連合軍を、倒すべき相手と断じることの出来ない優柔不断さは結果的に戦火を広げたのだ。
限られた本編の描写から、私が導き出したキラ像は以上のようなもんである。
コズミック・イラに生まれた時点で、彼に救いなどなかったのかもしれない……