ラグナ論

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ラグナがエルオーネやレインをどれだけ大切に想っていたかは、
キロス「おい、ラグナくん。あんた、毎日こんなパトロールごっこをしてるのか?」
ラグナ「ごっこ、ってなんだよ!」
キロス「世界を旅するジャーナリストになるんじゃなかったのか? ティンバーマニアックス知ってるだろ? そこの編集長と話をしてきた。世界の様子を紹介する記事なら、いつでも欲しいそうだ」
ラグナ「そりゃすげえ!」
キロス「一度、挨拶に行かないとな」
ラグナ「お、おう。あのな、もちっとここにいていいよな」
といったシーンや、
エルオーネを救いに、たった3人で遥々エスタまで乗り込んだ。
という展開から、よく分かる。
 
ところが、エルオーネを救出し、成り行きから魔女アデルを封印したラグナは、そのままエスタ大統領になってしまう。
いや、大統領になること自体は構わない。歴史上、他国出身の英雄が元首になった例は幾らでもあるし、ラグナはそれに相応しい偉業を実際にやってのけた。
問題は、大統領になったことではなく、17年間近くも大統領を続けたことだ。それだけ長ければ、何度も大統領選が行われていることだろう。大統領職を後人に任せ、自分はエルオーネ捜索の旅に出るチャンスは山ほどあったのだ。
それなのに、なぜ、行方不明になったエルオーネを放置し、あんな長いあいだ大統領を続けていたのだ?
なぜラグナはエルオーネよりもエスタ大統領職を優先したのか?
 
ウィンヒル以前、つまり、ガルバディア兵時代のラグナは、
ウォード「なあ、俺たち戦争に来たんだよな。ティンバー軍の屈強な戦士たちを相手に」
キロス「それがなんでこんな動物たち相手にチマチマやってなきゃならない?」
ラグナ「ん〜、それはあれだ…。ほら、ね」
キロス「また、道を間違えた」
ラグナ「とにかく帰還だ。デリングシティへGo!」
ティンバーに向かうつもりが、ぜんぜん見当違いな方向に進んでしまったラグナ。道を間違えてしまったことに気づいたラグナは、それでも戦場に行かず、そのままデリングシティに戻って、バーでくつろぎモードに移行してしまう。あれは仲間しかいない場での言動だからネタで済んでいるが、実際にラグナと一緒に戦うつもりだった同僚の兵士たちにとってはたまったものじゃない。この頃のラグナは、責任感のない、いい加減な男だった訳だ。
 
そんな、いい加減な男が、なぜエスタ国民のためにプライベートを犠牲にし続けたのか? いったい彼の内面にどんな変化があったのか? プレイヤーの視点から観察すると、ラグナ編1の頃のラグナも、今のラグナも大した変化がないように見える。だが、
キロス「変わったな、ラグナくん」
スコール「最初はふざけたガルバディア兵だった。いい加減で俺は好きじゃなかった。(中略)。だけど、あんたは変わった。ウィンヒルに行ってからだ」
キロスとスコールが口を揃えて、ウィンヒルでラグナが変わったという。
 
ラグナが大統領を続けた理由、こう考えてはどうだろう?
自由気ままな一人身だったラグナは、エルオーネとレインという“守りたい人”を得て、他人の命を背負うことを学んだ。だが、それ故に、エスタの人々を見捨てることができなかった
同僚たちがティンバーで頑張ってるのに、自分たちだけバーで楽しい夜を過ごしていたガルバディア兵時代。見ず知らずのエスタ人のためにプライベートを犠牲にし続けた大統領時代。まったく正反対なラグナの2つの横顔。そのあいだにあるのがウィンヒル時代であり、彼が守りたい相手を見つけたのもウィンヒル時代だ。
そう、
行き当たりばったりで何も考えていなかった男が、愛を知ることで、他人の命を背負うことを身につけた
FF8のテーマは『愛』だが、その意味でラグナは十分に主人公としての重責を担っているのである。
だが、
皮肉なことに、それが、一家離散の原因になった
エスタ国民の期待に応えて大統領職を続けたせいで、レインの死に立ち会えなかった。大好きなエルと離れ離れになってしまった。息子スコールとも会えなかった。犠牲にした17年間はあまりに大きい。
それでも、ラグナは、過去を必要以上に嘆かず、誤魔化そうともせず、ただ現在と未来だけを見据える。
ラグナ「俺はここに残ってあれこれあれこれ考えて、な〜んかわけわかんねうちに、こんなに時間が経ってしまった。…まあ、全部、俺がやってきたことだ。良かったのも悪かったのも全部、俺だからな。…なあ、過去の話なんてもうどうしようもないだろ? 未来の話をしようぜ。いや、この時代を守るとこから始めようぜ
ラグナは実際に17年前、世界を守った。そして、今度は目の前にいる息子が世界を守る。劇中ではさらりと流れてしまったが、この場面は親子の会話であると同時に、過去の英雄から未来の英雄へとヒロイズムが継承される瞬間でもある。
 
ラグナはFF8のもう一人の主人公だ。だが、それは、プレイヤーが操作できるキャラという意味の主人公ではなく、物語的、テーマ的な意味での主人公である。
スコールとラグナ、2つのエピソードが揃って、ようやくFF8は完成する
FF8は、実に味わい深い物語だ。


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