FF8の主人公スコールは、物語前半は任務のことにしか興味がないし、物語後半はリノアのことで頭がいっぱいになってしまう。そのため、本来のFFならばメインストーリーに絡んでもおかしくないようなエピソードまでサブ的な位置に留まっている訳だ。
本稿では、スコールに代わってFF8を彩る数々の疑問を解明していく。
そもそも魔女暗殺計画の人選はガルバディアガーデンの支配者ドドンナの独断だという点を思い出してほしい。
Disc2で自ら語っていたように、バラムガーデンの支配者ノーグは魔女と戦うつもりがない。一方、ガルバディアガーデンの支配者ドドンナは、自らの治めるガルバディアガーデンを魔女から守るため、なんとしても魔女を倒せねばならなかった。SeeDがバラムガーデンの直属軍 (=ノーグの制御下) である以上、ドドンナは魔女暗殺計画でSeeDの力を借りることはできない。彼の手駒はSeeDよりも弱いガルバディアガーデンの一般生だけなのだ。
そこに偶然現れたスコールたち。新米と言えどSeeDの戦闘力は一般生より遥かに上だ。しかも、SeeDを暗殺計画に参加させることで、もし計画が失敗しても責任をノーグに擦りつけることができる。
ドドンナはドドンナなりに合理的な判断をした結果、新米SeeDを魔女暗殺作戦に利用しようと決断したのである。
SeeDは全員バラムガーデン生である (ガーデンを卒業するとSeeDも引退) 。つまり、他のガーデンや各国軍で使用が自粛されているG.F.を存分な活用できる。それこそSeeDの強さの秘訣だろう。
ノーグとノーグ派の教師は生徒たちに、G.F.の記憶障害という副作用は風聞に過ぎないと言い聞かせてきた (SeeD就任式直後など参照) 。それを信じたSeeDたちはG.F.のお陰で大活躍、ノーグの懐には膨大な依頼料が舞い込んだという訳だ。つまり、ノーグたちは学生を食い物にしていたのである。
超科学大国エスタに対抗するためだ。ガルバディアにとってエスタは、魔女戦争のときの恨みがある相手であり、また、世界の覇権を握るためには叩かねばならない相手でもあった。デリングが対エスタ主義を貫いたことはチュートリアルに掲載されており、また、エスタに対する敵対心が一般兵にまで浸透している様子はDisc3のデリングシティで分かる。魔女戦争当時、エスタが魔女アデルの支配下に置かれていたことから、デリングは「魔女の力>エスタの超科学力」と考え、魔女イデアの協力に諸手を挙げて歓迎したのだろう。
SeeDの母体であるガーデンが誕生したのは魔女戦争後のこと。魔女戦争後の特殊な国際情勢がSeeDの存在を許していると解釈するのが妥当だろう。
チュートリアルで、ガルバディアは『他国への軍事行動をたびたび行うが、SeeDによって阻まれることが多い』と書かれている。独力でガルバディアに対抗できないバラムやドールはSeeDの力を必要としているだろう。ガルバディアはSeeDを苦々しく思っているだろうが、エスタと睨み合う (ガルバディアはエスタが平和国家になったことを知らない) 現状で、ガーデンに喧嘩を売る余力はガルバディアにない (ガーデンは簡単に制圧できるだろうが、その後のSeeDによるゲリラ戦が厄介) 。
各国政府にとってSeeDは信用できる相手ではないが、それぞれの理由からあからさまな敵対行動を取ることが出来ないといったところか。ノーグはそんな国際情勢に目をつけて、うまく金を稼いでる訳だ。
チュートリアルに次のような文章がある。
SeeDの戦闘方法の特長は高度に訓練された「擬似魔法」の使用にある。バラムガーデンでは「擬似魔法」とG.F.の組み合わせに関する研究が進んでおり、他の国々の兵士やガーデンの学生が身につける「擬似魔法」を使った戦闘より遥かに高いレベルを誇る。
スコールたちはG.F.を通して魔法を使用しているが、他にも(擬似的な)魔法を使用する方法があるということらしい。
おそらく、
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この2つも、G.F.以外の方法を利用した魔法なのだろう。
カーウェイがデリングの忠実なイエスマンではないことは、デリングが頼りにしていた魔女イデアを暗殺しようとしたことからも分かる。では、なぜカーウェイはティンバー占領についてデリングと歩調を合わせたのか? その理由はDisc2でカーウェイが自ら語る。
カーウェイ「東の大国エスタは最大の驚異だよ。かつて魔女アデルとともに世界中を侵攻した国。突然の終戦以来、エスタは沈黙を続けてきた。魔女アデルの消息は未だ分からない。エスタの実態は今も昔も厚いベールの向こうだ。エスタが再び攻めてくる可能性は大きい。我々は力を蓄えるために他国を占領していった。だが、その頃から何かが狂いはじめてしまった」
あれほど娘のことを可愛がっているカーウェイが、ティンバー占領の件のみ決して娘に妥協しない理由は、エスタの存在にあったわけだ。
具体的な人数は不明だが、
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もしかしたら現役SeeDは20人を下回るかもしれない…? これは正直なところ意外だった。
カーウェイの命令でリノアが釈放された件からも分かるように、Disc2冒頭の時点ではまだデリング時代のガ軍上層部の影響力は残っている。魔女を背景にサイファーがガ軍の全権を握る前に、ガ軍上層部と強い繋がりを持つドドンナがアーヴァインだけは釈放するように働きかけたのだろう。実行犯の中にガルバディアガーデンの生徒がいることが明らかになったら、自分の命も危ないからだ。
ちなみに、リノアがアーヴァインとともに釈放されなかったのは、ドドンナの前でSeeDのふりをしていたからだ。まさか彼女が共同首謀者カーウェイの娘だとは、さすがのドドンナも分からなかったのだ。
セシル、バッツ、ロックやセリス、クラウド、ジタン、ティーダ…etc。物語性が格段に高まったFF4以降の主要人物は、物語が始まったときには既に、生きるか死ぬかの緊迫した場面でも、その重圧に萎縮せず、全力を出しきるだけの経験を積んでいる(記憶のないティナはここでは除外)。戦いの素人だったティーダが短期間で一線級の戦士に成長できたのも、本業のブリッツで重圧に負けない精神力を身につけていたからだろう。
だが、スコールたちは違う。物語が始まった段階では、キスティス以外は傭兵としての任務を1つもこなしたことがない。本物の戦場を体験したこともない。彼等は半人前の少年少女に過ぎない。FF7で喩えれば神羅兵時代のクラウドにすら達していないのである。
そんな彼らがどうして世界有数の精鋭SeeDとして活躍できるのか。それはもちろんG.F.のお陰だ。記憶障害という副作用があるために各国軍で使用が禁じられているG.F.を利用して能力値を上昇できるからこそ、年端もいかぬ少年少女たちが、正規軍と対等以上に戦えるのである。
だが、G.F.によって強化できるのは戦闘能力だけだ。心理的な部分までは強化できない。Disc1でゼル、キスティス、アーヴァインが見せた失態の数々、あれがG.F.抜きの本当の力量、彼らが半人前であるという描写なのである。
バラムガーデンが誇る精鋭SeeDとは、ノーグが金儲けのために作り出した幻想に過ぎないのだ。
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FF8を魔女の物語として見ると、ノーグには何の存在理由もない。だが、ノーグはガーデンやSeeDにまつわる全ての『嘘』を一身に背負っている。彼がいなければFF8は成り立たない。その意味でノーグは魔女に匹敵する重要人物であると言えよう。
班長になったり、リーダーになったり、魔法のランプを貰ったり、バトル計を貰ったりするスコール。そこまでシドに特別扱いされるの何故だろうか。主人公だから? いや、違う。
イデアは成長したスコールがSeeDとして魔女を倒したことを知っている(エンディングにて)。おそらく、SeeD理念をシドに打ち明けた際にスコールのことも話したのだろう。『魔女を倒すのはスコール』という前提があるからこそ、シドは大任を与えて経験を積ませたり、色々なアイテムを渡すなどの便宜を図ってきたのだ。
シド「スコールくん、よろしくお願いしますよ。これは君の運命です。魔女討伐の先陣に立つことは君の定めなのです」 スコール「俺の人生が最初から決まってたみたいに言わないでくれ!」 |
※長くなったので別ページに移動しました。
ポイントは、
魔女イデア(実はアルティミシア)がSeeDの根絶を目論んでいる |
SeeDではないアーヴァインとリノアにとって魔女は直接的な脅威ではない。魔女との戦いはスコールたちに任せてしまうという選択肢もある。だが、
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好きな人のために暴走していたのはスコールだけじゃないわけだ。
スコールたちがイデアのことを覚えていなかったとか、みんな幼なじみだったとか、色々あるけど、より大きいのは、(1)SeeDの強さが突出している設定的な理由、(2)エンディングの2点だろう。
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“みんなが幼なじみだった”という衝撃の事実にばかり目がいっていると、本当に重要な意義をスルーしてしまう可能性があるので要注意。
実はDisc3以前にも、スコールがリノアに好意を抱いていることが分かる描写はある。
スコール「リノア…。俺たちの方法ってこうなんだ。戦うことでしか自分も仲間も守れないんだ。それでも良ければ、俺たちと一緒にいてくれ。みんなも望んでいるはずだ」 |
補足 | Disc3でスコールが唐突に変わったように感じるのは、上記のスコールの発言が、その少し前に明かされる「みんな幼なじみだった」という事実のインパクトの陰に隠れてしまっているからだろう。 |
スコールがリノアのためにアルティミシアと戦ったように、
ラグナ「魔女アデルが支配して、天才だが人でなしのオダインがいる国だ。おまけに、その頃の2人の興味はちっちゃいエルオーネにあったしな。んじゃ、サイナラって訳にはいかなかった」
ラグナもエルオーネのためにアデルと戦った訳だ。もちろん、それだけが理由ではないだろうけどね。
大統領の側近中の側近であるウォードがスコールに味方してくれたことを考えると、リノアの封印は、一部政府高官の独断暴走によって行われたものと解するのが妥当か。むしろスコールよりも、魔女記念館でリノア封印を遂行した者たちが罰せられる可能性のほうが高い。ラグナの愛と友情、勇気の大作戦にはリノアの存在と協力が不可欠だしね。
ラグナがエルオーネから聞いた話によれば、オダインがエルオーネを狙っていることを知ったシド夫妻がエルオーネを大きな船に乗せたらしい。つまり、スコールのその後の人生に大きな影響を与えたエルオーネ失踪事件は実は事件では無かったのである。
では、どうしてシド夫妻はスコールたちに真相を教えなかったのか。その理由を解く鍵は当時の国際情勢にあった。
この当時エスタは既にラグナ大統領を頂点とする共和制に移行していたが、情報封鎖を行ってしまったため、そのことを知る外部の人間は殆どいない。シド夫妻の頭の中の「エスタ=魔女戦争を起こした恐ろしい国」というイメージもそのままだっただろう。
魔女アデルの後継者を探すというだけの理由で遥々ウィンヒルまで兵を送ったエスタだ。もしも、シド夫妻がエルオーネを匿っていることがエスタ側にばれれば、孤児院の子供たちの命すら危ないかもしれない。
シド夫妻は、子供たちを守るために、子供たちに真実を話すことが出来なかったのである。「お姉ちゃんを探すんだ!」と息巻くスコールを見つめるシド夫妻の心情を思うと切ないな。
アルティミシアの目的が理解しづらいのは、アルティミシア初期形態とアルティミシア最終形態では目的が異なるからだ。
初期形態 | 時間を圧縮することにより、全ての時代に生きる魔女の力を取り込んで、世界を己の思うがままに作り直そうとしている |
最終形態 | 全ての時間と空間を圧縮し、体内に取り込むために体を変化させたアルティミシア |
上記の文章はどちらもライブラで表示されるものだが、圧縮する対象も、圧縮する目的も異なる。これはどちらかが間違っているとか、双方に矛盾することのない答えがあるということではなく、単に最終形態になるときに目的を変えたと見做すのが妥当だろう。
グリーヴァ合体形態のアルティミシアがHP0になったとき、「うごごご…」と呻きながら身体が崩れていった。あのとき既にアルティミシアは致命傷を負っており、生き残るために、時間と空間を圧縮して体内に取り込む(=エネルギーの補充?)ことにしたのだろう。
つまり、アルティミシアの目的を推測する際は、最終形態にライブラしたときの文章を除外して考えなければならないということだ。
補足 | アルティミシア最終形態に関してはもう1つの解釈もできる。それはグリーヴァ最終形態に敗れた段階でアルティミシアの精神は壊滅的なダメージを負い、その隙を突かれて魔女の力に身体を乗っ取られたという説だ。アルティミシアが最後に語る言葉は、魔女の力がイデア(或いはリノア)に憑依していたときの記憶に依るものではないかという推測もできよう。 |
傭兵という設定を活かした、対比構造になっている。
物語前半 | バトルはあくまでお仕事。依頼されたから戦っているだけ。 |
物語後半 | 自分たちの意志で戦っている。誰かに依頼された訳ではない。 |
リノアとスコールが見事な対になっている。
スコール | 実力はあるけど他人のことには無関心。 |
リノア | 他人の力になりたいと望むが実力が足りない。 |
やがて、
スコール | リノアを守るために未来の魔女と戦うことを決意する。 |
リノア | 想いの強さが記憶障害に陥ったスコールを救う。 |
きれいに着地している。
FF8は主人公とヒーローが分離した構造になっている。
主人公 | スコール |
ヒーロー | ラグナ |
筆者の個人的な感想です。