デリング物語

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FF8世界の現代史は、
ガルバディア(デリング政権)の視点で見ると面白い。
まず、キーマンであるガルバディア大統領ビンザー・デリングについて整理してみよう。

  • 大統領就任早々ティンバー制圧を行った野心家。
  • 自国の首都に自分の名を付ける(=デリングシティ)ほど自己意識が強い。
  • ゾーンたちの父親を見せしめのために自ら撃ったほどの男。
  • 自分を批判する者を容赦なく収容所へ。
  • 終身大統領として絶対的な権力を振るう独裁者。

これほど典型的な悪党だと清々しい。彼がFF2のパラメキア皇帝、FF6の皇帝ガストラに匹敵する可能性を持った野心家であることがよく分かる。
だが、彼は、FF6のガストラ帝国の魔導技術に代表されるような、他を圧倒するだけの“なにか”をもたなかった。FF8世界における最強国家は超科学技術と魔女を擁するエスタであり、ガルバディアは挑戦者の立場でしかなかったのである。
 
ガルバディアはエスタに対抗するために、領土の拡張を試みた。その代表的なものがティンバー併合だが、ガルバディアの領土拡張はそこで止まってしまう。以後18年のあいだ、ガルバディアが領土拡張できなかった理由はどこにあるのだろうか。

  • バラムを征服すること自体は簡単だろう。だが、劇中の描写から見て、バラムはわざわざ占領する価値があるような国には思えない(ガルバディアがティンバーを征服したのは資源目的)。
  • トラビアは遠征するには遠すぎる。まずバラムを占領して前線基地とし、そこからトラビアに侵攻することになるのだろうが、エスタと睨み合う状況でそれを行うのは難しい。また、トラビア自体、征服してもそれほど旨味のある国家とは思えない(寒い&ろくに開発されていない)。
  • ドールは今でこそ半島の小国だが、かつてはガルバディア大陸全土を支配する大帝国だった。歴史と伝統があるドールを併合すれば国際的な批判がいっそう強まりかねない(ガルバディアはD地区収容所などの件で既に強い国際的な避難を浴びていた)。

だが、最も大きいのは、SeeDの存在だろう。デリングが諸事情からもたもたしているうちに、ガーデンが作られ、SeeDが誕生する。チュートリアルのヘルプには、

ビンザー・デリング大統領が事実上の支配者である国。対エスタ・大国主義を打ち出し、領地を広げ、国領の増強を進める軍事大国である。他国への軍事行動をたびたび行うが、SeeDによって阻まれることが多い。中心地はデリングシティ。

スコールたちを思い出して欲しい。HP600程度の若造が、G.F.の力を利用したアビリティ装着や魔法装着によって、5000以上のHPを手に入れることができる。SeeDの恐ろしさは、記憶障害というリスクを怖れず(厳密にはリスクを知らされず)G.F.の力を存分に活用できるという点であり、その圧倒的な力の前では精強なガ軍さえも歯が立たなかった。
なによりも恐ろしいのは、
正規軍と正面からぶつかって勝てるだけの力を持ちながら、むしろ、SeeDの得意分野が破壊工作や暗殺といった裏の活動にある
という点だ。少数精鋭の特殊部隊SeeDは、いつでも、最強の暗殺部隊、テロ部隊になれるのである。
バラムガーデンを潰すことはできるだろう。だが、その際にSeeDも一人残らず根絶やしにしなければ、ガルバディアは大きな爆弾を抱えることになる。しかも、SeeDの本拠地バラムガーデンに侵攻するには海を渡らねばならず、莫大な戦費が掛かる。リスクは大きかった。
ガルバディア政府は、SeeDを力でねじ伏せることを諦め、なんとかドドンナを媒介にしてSeeDに影響力を持とうとしたが、もちろんノーグはガ国のその対応まで計算に入れたうえでSeeD派遣業を営んでいる。狡猾なワンマン経営者の前に、ガ国政府はいいように弄ばれた訳だ。
 
エスタとSeeD。その2つに阻まれて、ビンザー・デリングは己の野望を前進させることが殆ど出来なかった。そのまま20年近い月日は無情にも流れていく。…だが、天はデリングを見捨てなかった。少なくともデリング自身はそう思ったに違いない。
魔女イデアの登場
魔女イデアがデリングの協力者に。それはガルバディア、そしてデリングにとって、青天の霹靂であっただろう。

  1. イデアという女性が新たな魔女ということは、アデルは何らかの理由で魔女の力を失ったのか!?
  2. アデルがエスタを支配していたという事実から、明らかに「魔女の力>エスタの科学力」だ。
  3. 魔女さえいれば、エスタなんて怖くない!
  4. もちろんSeeDだって怖くない!

大統領就任時からの目標、世界制覇の夢、魔女イデアがいれば果たせるッ!
そして、FF8劇中でお馴染みの展開へと話が繋がる。
電波塔を再稼動させるという、ただそれだけの目的のために、ガルバディアはドールに侵攻する。魔女が自分の参謀であるという事実を世界に知らせることには、それだけのリスクを侵す価値があった。
ティンバーの放送局でデリングは「世界の全ての争いを終わらせる用意がある」と語った。これは魔女の力を背景としたガルバディア一極支配の実現を意図したものであり、平和大使として魔女イデアを紹介したことは、実質的には、各国に対する脅迫であった。
魔女イデアのために開かれた大パレード。そこからデリングがどれだけ魔女イデアを重く見ていたかが分かる。
だが、魔女イデアの登場で舞い上がっていたデリングの姿を冷めた目で見つめる男がいた。ガ軍の実質的な最高権力者フェーリー・カーウェイその人だ。
カーウェイは、ガ国が魔女に乗っ取られることを怖れ、利害が一致したドドンナと共に、魔女暗殺計画を練りはじめた
その計画に利用されたのがスコールたちだったのである。
Disc1のガルバディアのドール侵攻〜魔女暗殺作戦に至るエピソードには、これだけの背景があったのだ。


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